対象読者:AIをたまに使う一般の方。

専門用語は最小限にして、仕組みのレベルで「なぜAIによって嘘の出方が違って見えるのか」を理解できることを目指しています。 本記事は各社の公開ドキュメントをもとにした一般的な仕組みの整理です。 特定サービスの性能を格付けしたり、優劣を断定したりする内容ではありません。

こんな話、聞いたことありませんか?

「ChatGPTは検索しないから情報が古い」「Geminiは嘘と本当を混ぜてくるから信じると危ない」——SNSなどでよく見かける言い方です。

体験談としては分かる部分もあるのですが、実は少し誤解を含んでいます。結論から言うと、

  • どのAIも「検索する/しない」を状況に応じて切り替える設計になっている
  • ハルシネーション(もっともらしい間違い)の"起きやすい原因"は、検索を使うかどうかで種類が変わる

という2点を押さえると、見え方がだいぶ変わってきます。1つずつ図解していきます。


1. AIが答える前にしていること

AIは、質問の内容によって次の2つの動きを使い分けています。

  • 外部情報が不要な質問:AI自身の記憶(学習データ)だけで答える
  • 外部情報が必要な質問:答える前に検索・取得を行い、参考情報を見ながら答える

この「答える前に検索・取得を行う」動き方のことを、**RAG(検索拡張生成)**と呼びます。

図1

「調べた情報を見ながら答える」ので最新情報や具体的な情報に強くなる一方、参照した情報自体が間違っていたり、ズレた内容だったりすると、その間違いごと回答に反映されてしまうという新しい弱点も生まれます。これがRAGの一番の注意点です。

この後の章では、この「資料の参照あり/なし」の2パターンを、もう少し詳しい流れ(シーケンス図)で見ていきます。


2. 2つの動き方をシーケンス図で見てみる

2-1. 学習知識だけで答えるとき

図2

起きやすい間違いの種類:学習データの古さや、あいまいな記憶を「それらしく」補ってしまうこと。

2-2. 検索してから答えるとき(RAG/グラウンディング)

図3

起きやすい間違いの種類:検索結果そのものは正しくても、要約・統合する段階で異なる出典の情報を混ぜてしまったり、古い/的外れなページを正しいものとして扱ってしまうこと。

ポイント:どちらの方式にも「出典が実在しないのに、もっともらしく作文してしまう」「似た名前の別人・別製品を取り違える」といった、方式に関わらず起きるタイプの間違いもあります。


3. ハルシネーションの主な分類

図4
タイプ 何が起きるか 主な発生源 確認方法
知識不足型 知らないことを既知のパターンで埋める 主に検索なしの回答 公式資料・一次情報を確認する
検索統合ミス型 検索結果は正しいのに要約・引用の過程でズレる 検索・グラウンディング利用時 出典リンクを実際に開いて照合する
過信・断定型 不確かな内容を断定口調で回答する 検索の有無に関わらず起こる 「絶対」「必ず」等の言い切りを疑う
文脈混同型 似た名称の別人・別製品を取り違える 検索の有無に関わらず起こる 固有名詞を分解して照合する

知識不足型・検索統合ミス型は起きやすい"場面"がある程度決まっている一方、過信・断定型や文脈混同型はモデルの推論プロセス自体に起因するため、検索の有無にかかわらず共通して起こり得ます。


4. 主要サービスの「仕組みの傾向」(公開情報ベース)

以下は各社が公式に説明している仕組みの違いを整理したものであり、優劣の評価ではありません。検索機能自体は各社とも継続的にアップデートしており、実際の精度はモデルのバージョン・設定・質問内容によって変わります。

サービス 検索の位置づけ(公開情報より) 特徴
ChatGPT(OpenAI) 質問内容に応じてAIが自動的に検索を行うか判断する設計。手動で検索をオン/オフすることも可能で、無料プランを含む全プランで利用できる 検索時は複数ソースの要点を整理し、出典リンクを提示する
Gemini(Google) Google検索と連携した「グラウンディング」の仕組みを持ち、検索クエリ自体もAIが自律的に組み立てる 出典(引用元URL)をメタデータとして提示する設計
Claude(Anthropic) Web検索ツールが有効な環境でのみ検索を実行し、根拠となる文章に引用(citation)を付与する 引用元の文章と生成文をひも付ける設計で、どの主張がどの出典由来か追跡しやすい
Copilot(Microsoft) Bing検索や、利用環境によってはMicrosoft 365内の組織データと連携したグラウンディングが行われる 会話の文脈に応じて検索クエリを複数回発行することがある
Perplexity系 検索結果をもとに回答を構成し、出典を前面に出す設計を特徴とするサービス 複数ページの比較や出典付きの初期調査に使われることが多い

どのサービスも「状況に応じて検索する/しないを切り替える」という点は共通しています。つまり同じサービスでも、聞き方・モード・設定次第で挙動が変わるため、「このAIは嘘つき」「あのAIは正確」と一律に決めつけるのは実態に合いません。


5. ユースケース別に見る「間違いが起きやすい場所」

図5

同じ「ハルシネーション」でも、質問の性質によって発生原因が変わるため、サービスの優劣というより「今この質問にはどの動き方が向いているか」を考えるほうが実用的です。


6. 実務での付き合い方(共通の対処法)

  1. 出典リンクが付いていても、実際に開いて中身を確認する(要約段階でのズレが起きやすいため)
  2. 数値・固有名詞・日付など間違えやすい要素は複数ソースでクロスチェックする
  3. 「検索モード」が有効になっているか都度確認する(同じサービスでもモードによって最新性が大きく変わる)
  4. 断定的な口調=正しいとは限らないという前提で、根拠の有無を都度問い直す
  5. 重要な意思決定に使う場合は、一次情報(公式サイト・一次資料)にたどり着く手段としてAIを使う位置づけが安全

7. 用語のおさらい

ここまで読んだ方向けに、出てきた用語を改めて整理しておきます。

用語 意味
学習知識ベースの回答 AIが学習した時点までのデータだけをもとに答える方式。応答は速いが、最新の出来事には弱い
RAG(検索拡張生成)/グラウンディング 回答する前に検索エンジンや社内データベースから関連情報を取ってきて、それを参考にしながら答える方式。最新性は上がるが、取ってきた情報の質がそのまま回答の質に直結するという新しい弱点も生まれる
ハルシネーション もっともらしいけれど事実と違う内容をAIが生成してしまうこと全般。検索の有無に関わらず起こり得るが、原因のタイプが異なる

大事なのは「検索機能が付いている=嘘をつかない」わけではないという点です。検索精度が低いと、むしろ出典URLまで添えたもっともらしい間違いが生まれることもあります。これは検索なしの回答にはない、検索付き特有の弱点です。


8. まとめ

  • 検索なしの回答は「知識の古さ」、検索あり(RAG/グラウンディング)の回答は「検索結果の統合ミス」という、異なる種類のリスクを抱えている
  • どちらが優れているかは一概に言えず、質問の種類とモードの組み合わせで最適解が変わる
  • 各社とも検索連携・引用表示の精度向上に継続的に取り組んでおり、仕組みは日々アップデートされている
  • ユーザー側の基本姿勢としては「出典を確認する」「モードを意識する」「重要な判断は一次情報で裏取りする」の3点が最も効果的

本資料は各社の公開ドキュメント・技術解説記事をもとにした一般的な仕組みの整理であり、特定サービスの性能評価や優劣の主張、恒久的な性質の断定を意図したものではありません。検索機能の仕様は更新が続いているため、最新の情報は各社公式サイトをご確認ください。